2016年05月30日

20160530 たあいもないこと

徒然なるままに書き記す。忘備録というほどのこともないが、言質として次回とすべく書き記す。


最近分かったこと、というほど大袈裟なことでもないが、自分でも意外だったのだが、どうも僕が一番好きなピアノトリオはチックコリアのということだった。そしてチックコリアも好きだということだ。しかし視界に映る限りのチックコリア好きを自称するピアニストたちはフージョン臭がしてとても近寄りたいと思わないが、僕自身はチックコリアがとても好きだということに今更気づいたのだった。

宇宙の星屑ほどあると言われているジャズのCDやレコードの中で五枚選びなさい、選ばなければ死にますと問い詰められたら、間違いなくチックコリアの「Now He Sings, Now He Sobs」が入ることになるだろう。どうして好きなのかと自分でもはっきりとした理由らしき理由は有していないが、それゆえに生理的な部分で腑に落ちるからだとも言えなくわないだろう。

先日も明石のポチでセッションに参加してくれた若手の某氏とセッション後に話していたときに、ポチのN西さんが「ハンコックとかしにしても自分の出来ることだけして、出来ないことはしないから。何でもやろうなんてそんな人いないよ。チックコリアとかは別かもしれんけど」みたいなことを言っていたので、思わず僕は「でもチックコリアはリズムセクションの人間だけ変えて、やってることって一緒なんですよ。そこが賢いっていうかねぇ」と言っていた。N西さんも「そっか」と思うところあったような表情で笑っていた。その若手の某氏だけが空を見ていたなんてことがありました。

リズムの捉え方や、音の並びが決してビバップから芽が出たような、例えば「黒っぽいと」称されるようなピアニズムではありませんが、チック自身の生理や衝動に対して非常にダイレクトに反映していると僕は感じてそこはすべからくジャズらしいジャズだなと感じているところです。

あとやっぱり何でも手広くやっているイメージがあるんだけど、ライブ動画とか見るといつも同じ曲をやっていたりして、「何でも」というのはやはり何かしらの御解釈の元にあるんだろうとも思っています。共演者にしても然りで、自身のリーダーとなるバンド編成においてはいつもの面々ということが多いですね。企画物は別として。

あとリズム隊の組み合わせの妙に僕は驚きます。ヘインズとミロスラフとのトリオなんて最高ですよ。特にミロスラフなんて絶対曲知らんと耳と反応速度だけでやってるっしょ!?っていう適当さに盤石のチック&ヘインズのアンサンブル能力で立ち向かうという構図に僕は感じていて、どのアルバムも痺れるものがあります。

近年でのマクブライドとブレイドとのリズム隊も意外な組み合わせだと思いましたが、これもこれで面白いなぁとよく聴いています。しかしブレイドが二拍四拍でハイハットを踏んでいるのを聞くたびに逃れられないジャズの
イディオムの強靭さも感じて、なんというか心は侘び寂び比率二:八で胸が苦しくなることもあります。

そして何よりも彼のトリオを聴いていて「決断力」という言葉がいつも胸に迫ってきます。ジャズのアドリブ、まぁアドリブに限らずですが、イントロの一音目からエンディングの音を切る瞬間まで絶え間ない決断の繰り返しですが、それがチックコリアを筆頭にかのトリオの面々は侍が腹を切るが如くの潔さで斬れ味が非常に鋭いわけですよ。発想も鋭角なれば、展開も鋭角と言いましょうか。そしてとにかくその決断の根底にはおもちゃで遊ぶ子供の心のように「ただただ楽しく面白く」を頭じゃなく肉体的に全身体性を以ってやっているように僕は思えます。だからジャズのイディオムらしいイディオムに対して非情冷酷でありながら無かった物として扱うという非常識さは当然ありませんが、そこに甘んじるということは決してありません。未知なるものに対する欲望が果てしないんだろうなと浅薄ながら感じ取っています。


いつもプーさんプーさんと言って騒いでる僕ですが、プーさんもジャズイディオムに対する姿勢はチックと似ていると思いますが、この人の場合はもっと人間としての業、ピアニストとしての業、ジャズミュージシャンである業といった風に、とにかくそれらの因果にひたすらに苦悩していて没頭していったように思えて、音源を通してしか知り得ませんが、苦々しい日々を過ごしていたのだろうなと噂に聞く氏の人間性も省みて思う次第であります。その点でチックコリアはもっと軽やかに「アハハハーン」とか鼻で笑いながら地面を弾みながら独自の音楽で活躍しているんだろうなと受け取るこちらとしても深刻になりすぎずに楽しめますね。


長々と書いてしまいましたが、最近はそういう感じで生きています。
posted by さだおか at 10:46| 兵庫 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

20160530 スケジュール更新。

五月

31日(火)北野 BASIN STREET ヴォーカルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass
開場19時 開演19時半
¥1,500
http://www.basin-st.com/




6月

メロン6月表.jpg
メロン6月裏.jpg


4日、5日 メロンオールスターズ船上公演「マー坊の青春 ウラオモテ 〜湖上にて〜」
4日(土)18:00出港 20:00帰港(受付17:00〜17:50)
5日(日)14:00出港 16:00帰港(受付13:00〜13:50)
予約・前売3,000円 当日3,500円(高校生以下・車いす・障がい者無料)

琵琶湖汽船「megumi」船上
受付場所:大津港観光船のりば
ご予約・お問い合わせ
melonallstars@gmail.com





7日(火)北野 BASIN STREET ヴォーカルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass
開場19時 開演19時半
¥1,500
http://www.basin-st.com/



14日(火)北野 BASIN STREET ヴォーカルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass
開場19時 開演19時半
¥1,500
http://www.basin-st.com/



18日(土)グレイトジャズシリーズ IN 吹田 vol.8
14:00開演  13:30開場
吹田メイシアター大ホール
前売り3,000円 当日3,500円
全席自由席
http://maytheater.jp/series/1606/0618_jazz.html







自主企画!

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23日(木)春日野道 ギャラリー神戸天昇堂 
ラディカルな関係
仲曽根有里Voice
開場19時 開演19時半
¥1800

森山大道をテーマに二回目はボイスの仲曽根さんを迎えてやります。
先日打ち合わせをし、軽く音も出してきました。約三時間一度も森山大道というキーワードは出ずでしたが、結果そこに至るだろうと信じて内容を日々考えています。DUOという形態は面白いですね。やればやるほど面白い。自由と不自由さのバランスが居心地がいいんでしょうね。万を持してやりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。




28日(火)北野 BASIN STREET ヴォーカルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass
開場19時 開演19時半
¥1,500
http://www.basin-st.com/



29日(水)春日野道 ギャラリー神戸天昇堂
sketch 
野津昌太郎Gt
開場19時 開演19時半
¥投げ銭
飲食物の提供はございません。持ち込みは可能です。無論、差し入れは大歓迎でございます。


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sketchの説明。
もう何回目なのか分かりませんし、このユニットをやりはじめてどれくらいの時間が過ぎたのかも覚えてませんが、三年ほどの時間を過ごしてきました。当初は音響的即興をベースにやってみようということでしたが、回を重ねるごとにアンサンブルの原理みたいなものにひたすら突き進んでいるという感触を僕は持っています。それは僕が終始それだけを考えて企画なりその内容を考えているからだろうと思いますが、実際に野津とこの企画に関してちゃんと話したのなんてのは、やり始める前に某立ち飲み屋で「こんなことやりたいなぁ。一緒にやってくれん?」と話した時くらいで、それ以降内容やセッティングや構成に関してはほぼ会話を交わしてませんね。僕の記憶では。昨年の秋頃から間に休憩を設けないようにしたのが唯一か数少ない作戦会議的なものだったように思います。もちろん終わってからも反省会などなく、互いの胸の内でその日の感触を反芻するくらいですかね。

そもそも、これといって「今日は○◯だから良い演奏だった」という明確な基準はないんです。そしてそれはわざわざ演奏者であるこちらが設けるべきものでもないし、ましてや観客に説明するようなもんでもないと思います。それはsketchに限らず。特にこのsketchは座る位置や集中力や耳と脳との判断で聞こえ方がそれぞれ違うという特性の音楽ですので、音音音だけが聞こえてくるわけでもないわけです。残響もあれば、頭の上を走る阪急電車の音もあるし、その揺れで軋む音やその他聴こうとする限り音は聞こえてくるわけですから、それぞれが胸の内で満たされたり、消化不良だったり、意味不明だったりと感じ取ってもらえればなと思っています。

こういった文面やYouTubeにある以前のライブ動画実験音楽のような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、まったくそういう意識、目的ではやっておりません。第一実験音楽て何なんだ(笑)無音から音を引っ張り上げようとするんだからどんな音楽だってある意味実験、実践じゃないかとこの言葉を耳にするたびに違和感を覚えます。ただそう名前をつけてカテゴライズしたいという気持ちも察します。だってsketchみたいな音楽ってお茶の間には流れないし、知る人ぞ知る、やる人ぞやるという音楽性であることも分かった上で断言しますが、普通の音楽です!
かなり明確な目的をもってやっていますが、一聴して「こいつら何も考えてないんじゃ・・・。もしくは考えすぎて理解不能・・・。」な音楽性であることもわかりますが、こればっかりは会場に来て腰を据えて小一時間耳を委ねてもらうしかありません。

「耳が開く」。その言葉以外に形容が不能な状態になります。楽器の音も生活音もノイズも、すべて音として平等に聞こえてきて、さだに自分の脳の判断で聴くべき音を選び、楽しむ。それはわーきゃーなるような楽しみ方ではないですが、葛藤や悩み、誤解等が耳と脳を去来して音を研ぎ澄ましていく時間になると思います。

是非、お越しください!



連日自主企画!
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30日(木)神戸 ビッグアップル
當村邦明Ts 野津昌太郎Gt
開場19時 開演19時半
予約2000円 当日2300円
http://www.geocities.jp/kbigapple/

イージュートリオとしているのは全員が同学年の30歳だからであります。どうも僕が共演をお願いする人は限られた面々の中から組み合わせを変えているだけやなと自分でも気付いてはいますが、やはり手の内も手の外も見知った人同士でしか即興演奏は少しも形にはならないと理解しているからだと思います。少しずつでも拡張していきたいとは思いますが、虎の尾を踏まんように慎重にとも思っていて牛の歩みの日々ですがどうぞ宜しくお願い致します。

この日は即興とスタンダードとオリジナルです。飽和と崩壊と言いましょうか、創造するという前提において信頼の糸を担保に即興的に繰り広げていきたいと思っています。








7月




1日(金)明石POCHI CYNDIカルテット
CYNDI vo 高橋俊男pf 泉正浩ba
1st 19:30 2nd 20:40 3rd 21:50
¥2,600
http://www.pochi-live.com/index.html




自主企画!
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4日(月)元町 萬屋宗兵衛
浅井良将As 野津昌太郎Gt 石川翔太Ba
開場19時 開演19時半
予約2300円 当日2000円 学生1500円
http://www.soubei.co/


この日はスタンダードと野津のオリジナルを少々という塩梅でやろうと思います。ベースレスのトリオと違い、自由の尺度が変わりますが、やってることはそうも変わりません。真剣に、自分の中から出てくるものを出すだけだと思います。宜しくお願いいたします。






5日(火)北野 BASIN STREET ヴォーカルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass
開場19時 開演19時半
¥1,500
http://www.basin-st.com/



12日(火)北野 BASIN STREET ヴォーカルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass
開場19時 開演19時半
¥1,500
http://www.basin-st.com/



24日(日)明石POCHI スペシャルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass 定岡弘将Drums
開場18時半 開演19時
¥1860
http://www.pochi-live.com/




目下決まっているスケジュールは以上になります。追加あり次第書き加えていきますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
posted by さだおか at 09:58| 兵庫 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | schedule | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月26日

20160526

先週末から気分が晴れない。サウンドフェスタで神経を摩耗し、夜のポチとで体力的にヘトヘトになったことと、その前後に酒量が増え、生活リズムが乱れたことが理由だと思うが、気温も上がったことも要因ではあるだろうと思っている。

サウンドフェスタ以上に同時開催していたイベントにたくさんの子供連れの家族が来ていて、どうもその雰囲気や、往来に立つ人々に気遣いながら楽器の運搬をしたことが原因のようだが、それだけではないような気がする。

イベントが盛況なことは良いことである。それは僕もそう思う。そうでなければ続けていくことも出来ないし、企画者や主催者の努力が泡となってしまう。来た人も楽しそうだったし、イベントスタッフ達も多忙で活き活きとしていた。良いことだと思う。

が、想定以上に盛り上がってしまうと整然さを欠くのではないかという点が僕の中で重いのだ。それによってイベントの重心が上がってしまうことがあると思う。違う言い方をすれば、相乗効果でちょっとしたことでワッとなりやすいということもあるが、僕自身もハコが大きくなったり、観客の数がハコに対して「満」の状態になると緊張もするし、それによって力むことがある。無意識に普段よりも頑張ろうとしすぎるからだ。でも同時にいつもよりパフォーマンスが下回ってもその状況が許してくれるということもあるのだ。それが危険かなって思うから、あの日以来消化不良のまま過ごしている感は否めない。

例えばA面とB面、そういう言い方は誤解を招く危険性があるが、春日野道はB面としての機能があると思うんですよ。それが盛況であるということでA面感が出てしまった、ということが咀嚼できなかったのかもしれない。
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2016年05月17日

20160517 明日は創徳庵にてsketchです。

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5月と6月のsketchのそれぞれのフライヤーには僕と野津がそれぞれがsketchについて書いた文章を載せています。そちらもじっくりと読んでいただきたいと思いますが、読まずともまずは体感していただくことが「なによりも」だと思います。是非会場にお越し下さい。



5月18日(水)中崎町 創徳庵 
sketch
野津昌太郎Gt
開場19時 開演19時半
予約¥1800 当日¥2000(+1ドリンクオーダー)
http://ameblo.jp/soutokuann/

6月29日(水)春日野道 ギャラリー神戸天昇堂
sketch 
野津昌太郎Gt
開場19時 開演19時半
¥投げ銭
飲食物の提供はございません。持ち込みは可能です。無論、差し入れは大歓迎でございます。






そして、野津とsketch以外でDUOします!

5月21日(土)天満 bamboo club 野津昌太郎×定岡弘将
野津昌太郎Guitar
開場17時 開演18時 ※一時間強の1セットのみになります。お時間ご注意ください!
¥投げ銭+1000円(ドリンクとスナック代)
http://ameblo.jp/ushik/




どうぞ宜しくお願い致します。
posted by さだおか at 13:11| 兵庫 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | Live | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月13日

今週の日曜と来週は昼夜のダブルです。

今週末の日曜5月15日は昼夜とダブルヘッダーです。

まずお昼はこちら!
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春のジャズウォーク Bar MATINI
浅井良将As 西田仁Pf 石川翔太Ba RaviVo
1st:13時〜 2nd:14時30分〜 3rd:16時〜(入れ替え制)
各入場料1000円






そして夜はトアロードの上でメロン!

メロンオールスターズ公演「センジョウへの予備知識」@Kobe Live Spot Big Apple
□出演
森定道広(コントラバス)
行本清喜(トランペット)
市川聡(ギター)
名定正孝(ピアノ)
津上信子(フルート)
定岡弘将(ドラムス)
有本羅人(トランペット)
井上歩(コントラバス)
荻野やすよし(ギター)
登敬三(テナーサックス)
原口裕司(ドラムス)
諏訪いつみ(役者)
下坂千尋(役者)
西山まき(役者)
□open19:00 / start 19:30
□charge (予約2,000円 / 当日2,500円) + 1 drink order
□会場 / 予約・問い合わせ
【BIG APPLE】
〒650-0003
神戸市中央区山本通 3-14-14 トーアハイツ B-1
TEL & FAX (078) 251-7049

「メロンオールスターズ」
音楽家 森定道広が、新たな舞台創作作品を追求するために
創設したクリエイティブな集団。

ハイレベルな音楽を基軸にしつつ、
聴覚・視覚のみに捕らわれない
ポラロイド感覚〈シーンの連続性〉を表出し、
皮膚から浸透するイレギュラーな感覚を要所に散りばめる事により
浮かび上がる舞台の本質的な質感を創作するために、
計算しつくされた数々の仕掛け。
変幻自在な音楽からの贈り物。
光芒一閃の屋形船。

その創作技法は他では視られない独自性に富み、
音楽家・ダンサー・役者がそれぞれのジャンルに縛られず、
現代舞台の更なる深化の可能性を追求する集団である。
http://a-kugel.net/melon/







そして来週(22日)はお昼が春日野道商店街にてふれあいサウンドフェスタで夜は明石のPOCHIにてスペシャルジャムセッションです。

昼 春日野道商店街 ふれあいサウンドフェスタ
野津昌太郎Gt 當村邦明Ts 井上歩Ba
@のぞみ青果 13時半〜15時 投げ銭制
その他の出演者等詳細はコチラのHPからご確認ください↓
http://fes.kasuganomichi.com/


夜 明石POCHI スペシャルジャムセッション
高橋俊男Piano 泉正浩Bass 定岡弘将Drums
開場18時半 開演19時
¥1860
http://www.pochi-live.com/




宜しくお願い致します!
posted by さだおか at 11:00| 兵庫 | Comment(0) | TrackBack(0) | schedule | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ラディカルな関係より 「不在」

先日公開しました、「不在」後編です。

ライブでは、前編後編区切りなく朗読しました。あまりに長すぎると読まないだろうと思い、切っただけのことです。前編と併せて読んでみて下さい。



幼馴染の祖母が余命いくばくもないと聞き、久し振りにその友人の家に行った。
 学校を卒業してからはそれぞれに故郷を離れ、地元で会うとなっても飲み屋で会うことが多く、中学校の時に毎週のように行っていた友人宅も自然と遠くなり、ふと地元を散歩するときには意識的にその周辺を歩いたりしてあの頃と変わらない様子を見たりしていたが、当の友人もいないのに立ち寄っても迷惑かななんて思って通り過ぎるだけだった。
 十数年振りに上がった家にはもう大人しか暮らしてないんだろうと分かるくらい整理が行き届いていたが、あの頃のような活気はなかった。鞄や教科書、釣竿やグローブが雑然と転がっていて、外を見ると埃も逆光で妙に綺麗で、それも懐かしい。僕が行儀よく脱いだ靴を直しているのを友人は待ちながら「こっち」といって祖母がいる部屋を教える。相変わらず猫のおしっこの匂いがしたので「まだあの猫いんの?」と聞いたら、「いや今は別のや」とだけ答えた。

「おいよ。定岡来たよ。起きてるか?」
「おばちゃん。お邪魔します。久し振りです」
「・・・」
「薬飲んですからな。部屋行こか」

 痛み止めの麻薬を飲んだばかりで意識が朦朧としてるらしく、数日中にはホスピスに移るらしい。それから小一時間ほどおばちゃんの病状や看護やら病院やらと一方的に聞かされた。僕からは何を聞いていいのか、何を話題にすればいいのか来る前から不安だったので助かったが、僕以上に友人が色んな感情を直接ではないにしろ吐露出来て助かっているのだろうと思い返事することに終始した。その間猫は一度も現れることはなかった。

「時間大丈夫か?」
「あ、そろそろ帰るわ」

「婆さん、定岡帰るって」

眠っているおばちゃんを強めに揺すって起こす。来た時と同じように脂なんかなくなってかすかな肉と皮が骨に貼り付いただけの顔が歪む。呂律は回らずに言葉にならないが、少しだけ開いた瞼の向こうの眼は確かに僕を見つめていた。
「おばちゃん。お邪魔しました」
「・・・」
「また来ますから」
「・・・」
外の駐車場まで見送ってくれるというので、歩きながら全然違う話をした。でもやっぱり会話は続かない。
 友人は毎週末実家に帰ってきているみたいだった。平日ずっと看ている母親や父親の代わりに家でおばちゃんの様子を見たり病院へ付き添ったりで、たまに地元に帰っていたときのような顔つきではなくなっていた。疲れもあるんだろうなと思うが、僕はあの学生時代のその友人に近い表情をしているなと思ったが別に今する話でもないかと口にはしなかった。

「今日はわざわざありがとうな」
「いや、ちょうど帰る用事もあったし。前から気になっとったから」
「また顔見せに来てやってよ。忙しいやろけどな。俺おらんときでも遠慮いらんから。病院移ったらまた教えるし」
「うん。お前も気負いすぎんなや。平日働いてんやし」
人通りもなく、車もたまに通る程度で、自分たちの通学路だった静かなその道にまたこんなじっくりと立つなんて、本当に久し振りだった。

「今日はカメラ持って来てないんか?」
「あー天気悪いし置いて来たわ」
「そっか。今度来るときは持って来て写してよ。良かったら」
「うん。分かった。撮るわ」
「うん」


 帰り道、友人が僕がカメラを持ち歩いてるということを知っているということがおかしかったが本当は嬉しかった。それもまたおかしかった。

 いつまでもその時間が止まって欲しいと願わずにはいられないことが誰にでもあるだろう。そんなこと無理なのに楽しい瞬間がずっと続けばいいなぁなんて、幼い頃は毎日夕方来るのが寂しくて寂しくて、やっぱり後になって、あーあの時もっと遊んどきゃよかったとか後悔みたいに反芻したりする時間が年を取るごとに短くなっていく。今なんて友人と会うのも年に一回とかなのに、それだってあっさりと分かれて次の日の朝にはそれぞれ職場大真面目な顔で仕事をしていたりする。
 その瞬間を止めることは出来ないけど、その記憶を記録することは出来る。それも誰かのためにではなく、かといって自分のためにというわけでもなく。写真を撮る動機なんてどんなことでもいいのだろうが、たとえ理由なんかなくとも、撮影され、残った写真はどれだけ何気ないものであっても特別なものである。
 今日朝が来たように、また明日も朝が来る。次の日もその次の日も同じように夜が明け朝が来る。一日も、一時も、一瞬も、同じ時なんてない時間が流れゆく。そんなことを繰り返す中、目を留めて息を吐いて吸って、また吐いて。そうして生きている。
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20160513 マイブーム

最近のマイブームを列挙。

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時代はきしめんだ。

元来麺キチで、一日一食は麺類なくらい好きなのだが、気温も順調に上がってきている今日この頃、ぶっかけうどん、ぶっかけそば、ぶっかけそうめんが美味しくて美味しくて堪らない。

先日もスーパーの麺類コーナーの前で何やかんやと見ていたら、妙に腰の座った態度できしめんと稲庭うどんが並んでいて、稲庭うどんと細うどんの違いが未だに分からないベイビーな僕は男らしい佇まいのきしめんを手にレジに直行したのだった。

一度茹でてから冷水で締め、あとはぶっかけて啜るだけ。シンプルかつ美味い。洗い物も楽。何より暑苦しくない。かといってきしめんゆえに他の麺類では比類なき噛みごたえと啜るときに感じる唇との摩擦からの官能性に気が狂いそうになった。美味ーーーーーーーい。

今朝は近所の大安亭市場のオリンピック製麺所で一玉百円のきしめんを購入し早速食べた。それはもうスーパーのものとは次元の違うきしめん具合でさらに満足だった。しばらくハマりそうである。





音楽ではH Jungle with tGoing Going Home にハマっていて、一日一回は聞いている。

そもそもこの曲を聞いたきっかけが恥ずかしいんだけれども、某エロサイトでアイドルのイメージ動画を見ていたときに、そういう動画の多くは無料のフリー音源を使い回していたりするんだけど、アップする人の編集で消音して懐かしのポップスを重ねられていたりすることが多くあり、性的欲望を膨らましているのにすっかり「あ、この曲いいなぁ〜」と意識がいってしまうことがたまにあり、一番最近聞いてグッときたのがこれだった。

元から浜田さんの歌声が好きで、特に「春はまだか」が一番好きだったのだけれども、この曲や「誰かが起こせよムーブメント」の方も今聞くと素直に格好良かったりするのである。見落としがちな90年代中頃のポップス。まぁいわゆるTKが天下を取っていた時代なのだけど、天下を取っただけのことはあると思わざるを得ないのだろう。



あとは何と言っても赤瀬川原平だ。

毎週のように図書館に通ってはこの人の本を借りて貪るように読んでいる。大袈裟な言い方になるが、僕が今まで読んできた作家やその本、それは小説エッセイその他に限らず、とにかく文章という文章、言葉という言葉に触れてきたのはこの人の文章に至るまでの過程に過ぎなかったのではないかとすら思えるのだ。

特に最近集中して椎名誠や東海林さだお両氏にハマってかなりの量を読んだが、そのユーモアや軽妙な文章体にも非常に魅力を感じたが、赤瀬川さんの文章からは他の人には感じ得なかった品格があった。その感じって宮沢章夫さんの文章もあるのだけど、あの人はあの人でもちろん面白くて大好きなんだけど、自分が書く言葉や思想みたいなものに絡まっている感じがするんですよ、赤瀬川さんと比べると、ですけど。その点で赤瀬川さんは非常に軽やかに自分を再考する潔さがあるし、文章中にその過程をさらけ出すので逡巡が手に取るようにわかり、その人柄がなんとも言えず魅力的に感じてしょうがないのである。

赤瀬川さんや写真家の森山大道さんを調べれば調べるほどに、穏やかな人ほど怖いなぁと思うようになってきた。見た目派手だったり、作風が飛んでいたりする人っていうのは逡巡が少ないように思うんです。偏見ですけどね。それよりかは、穏やかな眼差しの裏にはどこまでも冷酷な批評性が潜んでいるような気配もするし、他者に対してあくまでも他者と切り離して思考するんだという僕からすれば優しさみたいなものを感じるのである。

憧れ。まさにそれ。赤瀬川さんに憧れる。




こうやってマイブームを並べたが、一見何の関連性もないようだが、これが僕の身体を通して収斂する日が来ると確信を持っているのだ。

posted by さだおか at 10:15| 兵庫 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月07日

20160507 今夜初めての創徳庵で。

本日はこちら!


5月7日(土)中崎町 創徳庵
Jérôme Fouquet (trumpet)
荻野 やすよし (classical guitar)
定岡 弘将 (drums)


19:00OPEN 19:30START
予約2,000yen 当日2,300yen

e-mail soutokuann@yahoo.co.jp
http://ameblo.jp/soutokuann/

大阪市北区中崎西4-2-30
地下鉄谷町線中崎町駅2番出口より徒歩5分
(阪急電車・梅田駅から徒歩約12分



荻野さんのライブへのコメントを転載します。


今回はジェロと皆を繋げようと当初は多くのインプロヴァイザーに集まってもらってフェス的にGW終盤の大々的なeventを企てようと考えましたが、スケジュールが直前だったこともありボクが導いた結論は古民家での小編成アコースティック。対極に位置するものになりました。最近はフリーインプロヴィゼーションを面白い・興味深いと言って過ごしてくれるリスナーが増えてきた肌感覚があります。多くのインプロヴァイザーに参加を募りたかったけど、それはいつかの楽しみにしておいて、ちょっとでも気になる方はどうかいらしてみてください。次に彼が来日したとき少し大きな規模のことも考えてみます。
ジェロと定岡くんの初共演ケミストリーを楽しみにしています。




初共演は一回きりのものです。その尊さは歳を重ねるごとに重みを増していきます。しかも初出演の会場で!

この日のブッキングが決まって以来、脳内でのイメトレを何度も繰り返してきました。ドラム機材を持ち込むのでその選別からです。どういう流れになるとか、そんなことよりも自分がどんな演奏をしたいかと能動的に考えた結果、スネアとハイハットに絞ることに決めました。

会場が古民家の並びにあるということで音量的に制限もあるだろうということ。ずっと自分が大切にしている自分以外の音を受け入れる間と魔を活かせること。そういったことを考慮してのセッティングと即興音楽への道だと今日は楽しみにしています。


そしてこれ大事なことなんですが、コミュニケーションが流暢でない英語で交わされるという事前情報を昨日確認できましたので、少なくとも今日はムッシュ定岡ではなく、定岡弘将として自然体で演奏時以外もいられるかなぁと思っています。意外と大事ですか。人間同士のふれあいは言語ですからね。たとえ音楽でそれを超越したふれあいがあろうとも。


そんなわけですので、今日は万全の体制で参りたいと思います。宜しくお願い致します!


蛇足ですが、今月の18日に野津昌太郎とのsketchというユニットでも創徳庵に出演いたします。こちらもどうぞ宜しくお願い致します!
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2016年05月06日

ラディカルな関係より「不在」

4月にやりました、ラディカルな関係で使いました「不在」という文章を公開します。前編後編の二回に分けての公開になります。

長いですが、読んでみて下さい。






「不在」


 白くぶ厚い、重そうな雲が空を覆っている。三月はまだ寒い。カラスが一羽、視界の端から端へと飛んで行った。元気なものだ。


 
日曜の午前7時過ぎ。俺は露天風呂に浸かっていた。ここが新宿だということを忘れるほど気持ちが良い。早朝の露天風呂なんてものは新宿だろうが箱根だろうが熱海だろうが北海道だろうが沖縄だろうが関係なく気持ちが良いものだろうなんて考えながら浸かっていたのに、さっきのカラスでこうしている場所が余計分からなくなった。ここは新宿だと言い聞かせながら入ると、温泉地のそれよりもグッと味わいを増した。
 無性に夜の新宿が見たくなり、衝動的にカメラだけを持って東京に来た。大阪からバスで約八時間。朝に神戸を出たのが日が暮れる頃には新宿西口の喧噪の中にいて変な感じだ。すぐにカプセルホテルにチェックインしようとしたが、フロントでは二人連れの外国人の対応に露骨に困った顔をする従業員がいた。お互いに単語だけで通じ合おうとしていたが、チェックイン待ちの列が伸びる早さほどには状況は進まず、困った顔は深みを増していった。積極的に意思疎通を測ろうとする一人はいいとして、もう一人はこんなことにも慣れちゃって結果どうにかなるんだからと開き直って退屈さすら醸し出していた。室温調整が過剰で諸々我慢に我慢を呑み込んで順番を待ち、やっと清算を済ましてロッカーのキーとタオルを受け取った。ロッカーではロッカーでまた別の外国人が大きな荷物を手に自分の番号を探していた。腹話術の人形でも入ってんじゃないのかという大きさの荷物をどこにしまうのだろうと一瞬気になったが、そんなことよりもまずは風呂だ。風呂で移動の疲れを取りたかったのだ。


 
 缶ビールを持ってスナップよりもまずは街と目を合わすために歩く。一方的でもいいから目を合わそうとする。路地から路地へ。雑踏から雑踏へと歩き続ける。そうして一晩をかけて歩き回った新宿という街は想像していた以上に懐の深い街だった。抑制なく欲望がのびのびと往来に転がっている。カメラでは写しきれない悲しみを感じた。擦れ違う人の顔は今を生きていながらにして中身の生は抜け落ち、機械化されたように生っぽさのない感じでとても直視は出来なかった。いるのにいない、そんな印象。俺が遠すぎたのだろうか。
 懐の深さと感じていたものはある種の冷淡さだったのかもしれない。人や建物がいくら入れ替わっても、また受け入れては勝手に流れてゆくということを、夏の街灯に蛾や虫が集まってくるかのような感じで新宿という土地は不動の様相で、ただそこにあるだけ、という方が近いのだろうかなどと思いながらカメラを街に向けてはシャッターを押した。
 確かにその瞬間俺の眼が見て捉えた景色光景有様にレンズを向けたはずなのに、写真として変換されたものに俺の眼という存在はない。俺が撮ったはずの写真に当の俺が不在となる。そんなことに後々気付くことになるのだが、この時は初めて夜の新宿に自分も参加出来ているという興奮と酔っ払っていたせいで躊躇なくシャッターを切った。
 ホテルに戻ると入口近くの階段で外国人がサンドイッチを食べていた。あのフロントで退屈そうにしていた奴だとすぐに分かった。結局ちゃんと泊まれるし日本安全だから何処ででもご飯食べられて嬉しいという表情で美味しそうにレタスハムサンド頬張り、床に落としたレタスも摘まんで食って満足そうだった。ゴミはちゃんと捨ててくれよとだけ願いながらエレベーターに乗った。そういえば歌舞伎町には黒人が多く、ゴールデン街には日本人以上に外国人が多く、しかもそのほとんどがアジア系以外の顔の人だったのが意外だった。ゴールデン街にはそれなりに憧れもあるが、どうも経験したいというほどの魅力はなく、近寄るだけで十分だった。あそこで酒を呑めるほど思い切りもよくなければ、第一に狭い店が多く、どんな人の渦に巻き込まれるか想像するのも嫌だし、かといって静かにグラスを傾けられるような店っていうのもそれはそれで怖い気がするというのは人見知りというか品性の問題だと、思いたい。結局新宿の街で入った店はコンビニくらいなもので、そのほとんどの時間を路上や道端で過ごした。


  
 あまり寝付けないまま予定より二時間以上も早く目が覚めてしまった。眠る前は暑かったのが、起きた時には肌寒くてとてもじっとしていられなくなり、朝風呂をしようと大浴場へ向かった。こういう所の使い捨て歯ブラシやカミソリはいかにも粗雑だが、その粗雑さがかえって旅情を掻き立てる。早く家に帰ろう。帰ってちゃんと毎日使ってる歯ブラシで歯を磨き、いつものカミソリで髭を剃りたいという気分になれるからだ。シャンプーやボディーソープもどこのメーカか分からないものの方がいい。そりゃ皮膚や毛根に良いかは分からないが、とにかく自宅に帰りたくなるからその方がいいのだ。そしてこういう所の洗い場の鏡は遠く、裸眼で髭を剃るときには指先の感覚だけを頼りに剃るのでそれが座頭市のような気分になれて、それも良かったりする。
  露天風呂に設えられた大型テレビからどうしようもなく日曜の朝っぽい番組が放送されていた。同世代の人間が三人集まってとりとめのない話をするという風なもので、その日はキザな若手の役者がどうしようもなくどうしようもないことを語っているのを、オッサン三人と一緒に見ていた。見ていたというより、ただ動くから視線を向けていたくらいのものだったが、一人のオッサンが「しょうもない。天気予報は?リモコンは?」と小声で独り言を言っていた。それも決して探す気などなく、嗚咽の代わりに吐いている程度で、思わずニヤニヤしてしまいそうになった。「あー露天風呂に浸かりながらオッサンの独り言聞いてる日曜の朝なんて、まさかこんなこと新宿のど真ん中のいかにも東京っぽい曇天の下で経験するなんてなぁ。変な感じだわ」とか思って、風呂上がってもここから自転車乗って帰るわけじゃないんだぞと自分を戒めた。それくらい自然で、それくらい気の抜けた光景にはまり込んでいた。
 風呂を上がり、ホテルからはドレッシングルームと紹介されている名前とはアンバランスにただただ楽屋に毛が生えたくらいの場所で髪を乾かしていたら、背中の方からオッサンの妙な視線を感じた。新宿。カプセルホテル。緊張感が走る。ドライヤーの熱風が余計にに熱く感じる。俺の隣では口笛吹きながら足の爪を切るオッサンいて、こっちはこっちで爪の行方にもう少し気遣って欲しいほど自宅気分でいやがる。そういえばこういうホテルって爪切り借りれるのかな?借りるとしたらフロントかな?オッサンが爪切り持ち歩くなんて・・・ないよな、なんて考えていたら後ろのオッサンがタオルを集めていたホテルの人に「爪切りってあるぅ?」と話しかけた。オッサンが見ていたのは俺ではなくその隣のオッサンが手にしたそれだったのかと保湿クリームを塗りながら鏡越しにオッサンが爪を切るのを見ていたら、それまで気にもならなかった爪の長さが妙に気になり始めた。隣のオッサンは気付いたらいなくなっていた。後ろのオッサンが使ってるのを注視すると隣のオッサンの使っていたのと同じののようであり、自分がさらにオッサンの後使うのは多少嫌だなと思ったが、まぁカプセルとはいえホテルなんだし爪切りも一個ってことはないだろうとスタッフルームにいた人に声をかけると返事なく爪切りだけ手渡された。左手右手右足左足の順番に切っていると風呂上がりの別のオッサンがまた時折こっちを見ていたので、そのオッサンがこっちに視線を向けているタイミングで従業員に爪切りを返すと、案の定その従業員に声をかけていた。



 東京からの帰りのバスは事故や渋滞で一時間以上遅れたが、無事に大阪に着いた。そしてまた日常へと戻り、昨日の今頃の時間には新宿を右往左往していたのかと思うと不思議な気がした。今自分は大阪から神戸まで、阪急電車に乗って座っているだけだが、新宿では昨日と同じような喧噪と欲望が息巻いているのかと思うと不思議でしょうがない。そして昨日の自分と同じような人間がまた何処からともなく集まって彷徨ってまたここには自分の居場所はないということを確かめて過ぎ去ってくのだろうか。
 


 数日後にゴールデン街が火事になったというニュースを見たが、繰り返し報道される現場はあの日も歩いた場所だったのだが、やはり自分がそこにいない限り、そこで生きてきたという感触がない限りは他人事というより、フィクションのようにしか感じられず、それに関する情報や報道がどんどん自分の中で上滑りしていったので、思わず思考を停止してしまった。


(続く)
posted by さだおか at 23:33| 兵庫 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | Live | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする